1.概要
現象:ライナリング(ウェアリング)が摩耗
測定データ:吐出し量=少、吐出し圧力=低、締切り圧力=低
 |
図1.ライナリング周辺
の構造
|
ライナリングやウェアリング(以下、ライナリングという)は、図1に示すように、遠心ポンプの羽根車(回転部)とケーシング(固定部)の隙間(クリアランス)を狭くすることで、羽根の出口側で高圧になった液体が、低圧部分に漏れるのを抑制する部品である。
この隙間が摩耗や腐食で広がると、漏れ量が多くなり、ポンプの性能が低下する。羽根車が仕事をしても、隙間からどんどん液体が漏れてゆくのだから、圧力も下がり、吐出し量も減少してしまう。それは、素人でも何となくイメージできるだろう。
2.性能の考察
 |
図2.性能曲線 |
ライナリングが摩耗すると、性能曲線は吐出し量がゼロから最大に至るまで全吐出し量で全揚程が低下する(図2参照)。
抵抗曲線はあまり変化しないので、運転点がAからBへ移り、全揚程はH
1からH
2へと小さくなり、その結果、吐出し圧力が低くなる。また、吐出し量はQ
1からQ
2へと減少する。
この傾向は、「
回転速度が低下」と全く同じである。
3.その他の測定データ
ライナリングが摩耗した場合の、その他の測定データは下記となる。
・吸込み圧力:変化無し、または微増
・
電流値:遠心羽根の場合=大、斜流羽根=変化微妙 ・・・【重要】
・振動値:変化無し(隙間が過大となると回転体が振れて振動値=大の場合あり)
・異音:変化無し
ここで着目したいのは電流値である。
ライナリングが摩耗した場合、羽根車から出た液体は、ライナリングの広がった隙間を通過して吸込み口側へバイパスして循環しているのだが、これは吐出し配管が開放されて流れているのと、ほぼ同じ状態といえる。
吐出し配管から流れる液体は少ないが、羽根車自体は大変な仕事をしているのだ。そのため、遠心羽根の場合は電流値=大となる。
4.発生原因(例)
・液性の問題(砂などのスラリーの混入、毛髪等の絡み、腐食性の液体)
・軸受の損傷などによる、回転体の芯ずれ
・羽根のアンバランスや軸の曲がり等による、回転体の振れ回り
・ライナリングの不良品(設計または加工ミス)
5.類似の現象との区別
「羽根車が損傷」した場合は、ライナリングの摩耗と似た測定データで、吐出し量=少、吐出し圧力=低、締切り圧力=低となる。また、吸込み圧力も似た傾向となる。
明白な違いは電流値である。ライナリングが摩耗した場合、遠心羽根では電流値が大となるが、「羽根車が損傷」の場合は電流値が小となる。
 |
表1.電流値の違い |
「
回転速度が低下」の場合も、ライナリングの摩耗と似た測定データで、吐出し量=少、吐出し圧力=低、締切り圧力=低 となる。違いは、電流値である。
また、回転速度が異なる。回転速度計(タコメーター)があれば、回転速度も測定しよう。
 |
表2.電流値・回転速度の違い |
「
吸込み配管の閉塞」はライナリングの摩耗と似た測定データで、吐出し量=少、吐出し圧力=低 となる。違いは締切り圧力である。必ず締切り圧力を測定しよう。
 |
表3. 締切り圧力の違い |
6.アドバイス
①本項では「摩耗」と呼んでいるが、摩耗ではなくライナリングの「腐食」によってクリアランスが広がって、能力低下を起こしている可能性がある。
「摩耗」が原因の場合には、ライナリングの材質を耐摩耗性の高いものに変更したり、表面処理等を施したものに変更することで対応する。また、ライナリングの摺動部に外部から清浄な液体を圧入することで、摩耗を防止する方法もある。
「腐食」が原因の場合には、ステンレス鋼やエンプラなど耐食性の高い材料を採用する。
②クリアランスが狭いほど、高圧側から低圧側への漏れが少なくなり、ポンプの性能は向上する。しかし、狭い方が異物の噛み込みによる回転体のロックや焼き付きのリスクが高くなる。
③ライナリングの隙間の許容値は、「隙間が新品の3倍まで」や、「直径100mmあたり0.3mmまで」などと一般的に言われている様だ。
正確に知りたければポンプメーカーに問い合わせるしかない。私の個人的な意見としては、低下してゆく能力・安全を、ご自身が我慢できる限界まで使えば良いと思う。
7. 修正履歴
2018-10-24:電流値の変化について誤記訂正
以上